記憶の天窓

好きなものの記憶

実父の話

 

早く返さないといけない実父へのメールのことを考えてたら眠れなくなった。
単純にあんまり会いたくない。最後に会った時の気持ち悪い笑顔が頭から離れない。家族みんな実父のこと嫌いでも私はあんまり嫌いじゃない、と思ってたのにあの笑顔で一気に嫌いになってしまった。
どんなにクズでも父は父だし、今の母彼の方が嫌いだからそれに比べたら、て思ってたんだけどな。


店を手放す時に店が入ってた物件の大家と電話で涙声で話す声も、毎回玄関先でお金とお菓子を渡すだけなのにその日に限ってリビングまで上がってきて祖父が亡くなったことを告げた姿も、未だに覚えている。
いつも無表情でユニークさもあまりないくせに、そういう時だけ素直で感情豊かな実父が理解できなかったし、だから嫌いになれなかった。


別居してから、実父と取引をするのは私の役目だった。実父と冷静に顔を合わせられるのは私だけなのだと、私自身も分かっていたから素直に引き受けていた。


なんで私の役目なのだろう。仕事が忙しいという理由がなければ、こんな役目姉でもよかったはずだ。
少し昔、叔母が夢で、泣いている実父が姉に声をかけられている姿を見たと話していたことがあった。叔母は霊感というほどではないがそういうのに少し勘が働く人。
私じゃない。
私がこんなに精神を削って会っているのに、私では意味がないじゃないか。


これも昔、実父と離れて寂しいという感情を母に吐露した時、母は冷めた目で私を見ていた。
あの日に私は母への信頼というか、色々なものが切れた。多分私の母への隠し事癖はこれのせいもある。


加えて最近になって、母彼の横柄な態度にいちいち腹が立つようになってしまった。私の家に居座り、母を振り回す姿。母は母彼の味方だから特に抗わない。私が母彼の愚痴を言ったところで聞く耳を持たないし、家の面倒を見てもらっているから、と状況の改善はしない。


最後に実父と会ったのは実はまだそんなに前じゃない。3、4ヶ月前くらい。
習い事の帰りに待ち合わせて会った実父は、恐ろしいほど笑顔だった。もうその時点で帰りたかったけど息を止めて我慢した。
久々に会った娘をサイゼに連れて行って周りの騒騒しさに「うるさいね、もっとゆっくり話せると思ったんだけど」と言い出した時には頭を抱えそうになった。
必要なことだけ話して無理やり笑って、さっさと店を出た。帰りに本屋で高い新書と文庫本を買ってもらった。
帰りの電車で私の家の最寄りに着いて別れる時、私が差し出した手を実父は握らなかった。差し出してしまったことを激しく後悔して急いで電車を降りた。


そんなことや、実父のこととはまた別件で中学の時のこととかあって。
だからか、なんとなく男性は今だにあんまり得意じゃなくて、恋はしたいし仲良くしてくれる人のことは大好きだけど、概念的になんだか苦手。


だから今、推しの手をあっさり握れていることにとても驚いている。(そもそも四人は性別の概念とかないに等しいけど)
あの日実父に握ってもらえなくて、空を掴んでいた手が収まる場所があることに驚いている。
嬉しくて何度も握り直してしまう。推しの手は大きくて骨張ってて、こういうところはちゃんと男性の手って感じがする。でもはるか昔に実父の手を握った時よりずっとずっと安心する手だと思う。一番強く握っていてくれた日、6月12日のことをたまに思い出しては泣いている。
推しがいなかったら、多分ちゃんと男性に触れられるかどうかも分からなくて、男性恐怖みたいの出てしまっていたのかな、とぼんやり考えたりする。いつもありがとう。


そんなことを考えていたら動悸が止まらなくなって息苦しくなってきてしまった。
幸いなのか幸いじゃないのか、私はこうやって思い悩んだことで医者にかかったことはなくて、リスカとかも血への恐怖が勝ってできなくて、ストレスは全部ちゃんと身体異常に来る。呑気な体だ。


あーやっぱりメールしたくないな。